「恐怖の先にある覚悟」
2026.03.212026年3月、チェコ・プラハで開催された世界フィギュアスケート選手権。この大会は、坂本花織選手にとって21年間の競技人生に幕を下ろす引退試合でした。
結果はショート、フリーともにトップ。合計200点超えで2年ぶり4度目の優勝。まさに有終の美でした。そして彼女は「思い残すことはない」と語りました。しかしこの言葉の裏には、決して順風満帆ではない、「恐怖と向き合い続けた時間」があったのだと感じます。
彼女はこれまで何度も「恐怖」という言葉を口にしてきました。オリンピック公式練習後、思うように滑れず涙を流した姿は弱さではなく、どれほどの重圧と向き合っているかを物語っているようでした。いつも笑顔に溢れる彼女だからこそ、TVで涙を流すシーンはまた衝撃的でした。
氷の上は、わずかなミスで全てが崩れる世界です。その極限状態で自分を表現し続ける。その恐怖は、我々の想像をはるかに超えるものだと思います。
多くの人は、強い人は恐怖を感じないと思いがちです。しかし実際は逆で、本気で挑んでいるからこそ恐怖は生まれる。彼女はその恐怖から逃げなかった。隠さず、受け止めた。そして恐怖を抱えたまま、氷の上に立ち続けたのでしょう。
だからこそ今回の演技には、一切の迷いを見せませんでした。一つ一つの動きに「これが自分だ」という意思が宿り、そこには技術を超えた「覚悟」を感じました。おそらく彼女は恐怖を克服したのではなく、恐怖と共に前に進むことを選んだ。その選択こそが、彼女の強さの本質なのだと思います。
ビジネスの世界でも同じです。我々もまた、意思決定や失敗、責任という「恐怖」と日々向き合っています。
重要なのは、恐怖をなくすことではない。その恐怖にどう向き合うかです。恐怖から逃げれば挑戦は小さくなる。しかし受け入れて踏み出した一歩は、必ず次の成長に繋がる。
坂本選手の21年間は、その連続だったのでしょう。
そして最後に彼女は「やり切った」と言い切った。この一言の重みは大きい。多くの人はどこかに未練を残します。しかし彼女は違った。すべてを出し切り、自らの意思で終わりを迎えた。
そこに私は、「終わり方の美しさ」を見ました。
ビジネスでも同じです。どれだけ成果を出しても、最後に迷いがあれば未完成です。しかしやり切ったと胸を張れる状態で終えられるかどうかが、本当の価値を決める。坂本花織選手が見せてくれたのは、勝利以上の価値でした。それは「恐怖を抱えながら、それでも前に進む」という生き方です。
そして私は改めて、強さとは恐怖がないことではない。恐怖を抱えたまま、それでも挑み続けることなのだと。
彼女の21年間に、心からの敬意と感謝を。本当にありがとうございました。



